公益財団法人JKA 2020年度自転車等機械振興事業・研究補助(個別研究)

  

「充放電電流と周囲温度が変化した場合のリチウムイオン電池の性能シミュレーション技術の開発」
研究成果

研究代表者:熊谷誠治,研究分担者:富岡雅弘

 輸送機の電動化は世界的な流れである。電気自動車の普及は,エネルギーの効率的利用とは既出ガスの低減を実現でき,世界のエネルギー・環境問題の解決に大きな貢献を果たす。その電気自動車の駆動電源の主流はリチウムイオン電池であり,近年その高性能化と信頼性向上に関する研究開発が活発である。高性能で安価なリチウムイオン電池の製造は,各国の自動車産業の隆盛に大きな影響を与える。

 リチウムイオン電池の性能は,充放電電流値,周囲温度,使用頻度など多くの条件により変化する。一般に,リチウムイオン電池の基本性能や動作を検証するため,充放電電流値,周囲温度,既使用サイクル数などの異なる条件下で試験される。さらにそれらは全て実機による検証となる。リチウムイオン電池に関わる企業は,極めて多数の試作電池の評価や製品化電池の性能評価を実施する必要に迫られている。多くの試験は時間・労力・費用の面で企業に大きな負担となる。試験業務の1つに数多くの候補電池から有望な電池を取捨選択するスクリーニングがある。図1に示すように,限られた試験条件の結果から,広範な試験条件の性能を予測できれば,スクリーニング業務に要する時間,人員,費用を大幅に削減することができる。


図1 本研究の背景

 本研究では,リチウムイオン電池の電気的等価回路モデルを構築し,特定の試験条件の結果から広範な試験条件での充放電特性を予測する技術の開発を目的とする。数ある試験条件の中で本研究では充放電電流値および周囲温度に着目した。

 図2に示すように,数値補間法により,等価回路における素子パラメータを算出することで充放電電流値および周囲温度が変化した際の充放電特性を予測する手法を考案した。そして,充放電電流と周囲温度が変化した場合のリチウムイオン電池の性能を予測した。


図2 リチウムイオン電池の性能予測の概略

 本予測手法を用いて充放電特性を予測した結果,図3に示すように高温域では本予測手法は十分適応可能であることがわかった。


図3 60℃,0.7C-rateにおけるリチウムイオン電池充放電プロファイルの予測結果

 また,低温域においては,高い充放電電流では予測精度がやや低下する傾向が見られた。しかし,中および低い充放電電流の場合,図4のように,実用上十分な予測精度を有することがわかった。


図4 0℃,0.5C-rateにおけるリチウムイオン電池充放電プロファイルの予測結果

 以上の結果から,充放電電流と周囲温度が変化した場合のリチウムイオン電池の性能予測は十分に実現可能であり,その予測技術を確立することができた。

2021.5.6公開